| 高齢者は人を見る目が肥えており、簡単には人を信用しない。口先だけの対応では通用せず、「本当に相手の役に立ちたいと思っているのか」(外山慎司社長)が、最終的に会社の業績として現れてくるのである。シルバーとっぷの場合、計算に基づいてスタートしたわけではない。外山社長はもともとビジネスが好きで、学生時代には喫茶店、塾の経営や旅行の企画にチャレンジするなど、起業家への夢を心に秘めていた。現在の会社を立ち上げたのには二つの実体験がきっかけになっている。最初は、中堅会社に就職して半年後に巻き込まれた交通事故だった。高速道路上でトラックに追突され、媚の骨がずれるほどの重症で、入院期間はおよそ半年に及んだ。同じ病室の高齢者と触れ合い、入浴の手伝いなどをするうちに「福祉の道に進んで高齢者の役に立ちたい」と心に決めたのである。退院後、外山社長はこの考えを直ちに移す。千葉県内の移動入浴サービスに転職し、入浴設備を積んだ車で県内各地を巡回し始めたのである。 |
◆寝たきり老人との出会いが創業を決めた
そして、二度目の体験が訪れた。ある日、勝浦市のある高齢者の家へ訪問すると、その男性は10年以上の寝たきり生活でひどい床ずれに苦しんでいた。勤務先の規定では、床ずれのある高齢者は入浴させては行けない決まりになっているしかし、この男性は「死んでもいいから、おふろに入りたい」と泣いて訴える。外山社長が思いきって入浴させたら、今度は涙を流して喜ばれたのである。それから間もなく、新聞で床ずれを起こしにくいというエアマットを知り、早速取り寄せた。人の体はまったく動かなければ二時間で床ずれができてしまうが、エアマットで体重を分散すれば床ずれが防止できると説明されていたからだ。
手に入れたエアマットを勝浦市の男性に届け、「とにかく試してください」と置いて帰った。そして、1か月後に再訪問した時に驚いた。男性の床ずれが治癒していたのである。外山社長はエアマットなどの福祉用具の取り扱いを求め、勤務先の社長に直談判した。しかし、物販を手がけることには否定的だった。そこで、「寝たきりの高齢者にエアマットを普及させたい」と、創業することを決意したのである。とはいへ、創業時の資金は200万円程度で、子供も誕生したばかり。元でのかからない仕事ということで、外山社長は自転車屋の店先で技術を盗み車椅子の修理から事業に乗り出した。老人ホームでは故障した車椅子を倉庫に放り込んであるのが一般的だったため、たいそう喜ばれたそうである。同時に、雑貨の買出しなど、いわば何でも屋的なかたちで付き合いながら、特別養護老人ホームや医療法人のスタッフとの信頼関係を築いていった。そして車椅子や介護用ベッドのレンタルへと事業領域を拡大していったのである。レンタル福祉用品の普及に向け、まず平成5年に成田市に出店、ニ店舗目を松戸市に進出した。競争の激しい千葉市を避けた戦略が功を奏し、成長に弾みがついた。そして現在、千葉県のエアマットレンタル市場で、7割のシェアを得るに至っている。
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◆風通しのよい組織が品質を支える
同社は、つねに新しいサービスの提供を目指している。例えば、介護用ベッドが必要になった場合、【1】レンタル、【2】新品購入、【3】中古(リサイクル)品購入という選択肢が考えられるが、同社では昨年3月からもうひとつの選択肢として「新品福祉用具終身使用システム」を導入した。新品を定価の半額で期間無制限で使用できるという内容で、ビジネスモデル特許も出願しているシステムである。新品を購入するのは高いが、他人が使った後のレンタルベッドや中古品のマットに寝るのは抵抗がある、という利用者のニーズにこたえるものだ。
介護用品の平均使用期間は、介護用ベッドが11.8か月、エアマットとなると4.4か月に過ぎない。この期間が過ぎると、これらの用品は多くの場合、粗大ごみになってしまうが、このシステムでは電話一本で引き取りに出向く。引き取った商品は完全消毒を行い、中古品として高齢者施設や医療法人に低価で販売する。また、シルバーとっぷは高齢者の採用にも意欲的で、60代後半の社員も数人在籍する。定年退職も無い。高齢者にサービスを提供すると同時に、働く場も提供しているわけである。社員の全員が転職組みだが、社内にはめったにお目にかかれないほどの風通しのよさである。そのひとつの表れとして、事務所の壁には、大判の模造紙が貼ってある。4年前からとり入れたもので、社員から挙がってきた不満点や改善を要する点が書き出され、改善されるまで掲示されるとのこと。これは外山社長の「会社組織は逆三角形であるべき」という持論によるもの。顧客に近い現場から、ボトムアップで声をくみ上げる必要を感じているからだ。利用者向けにもハガキでアンケートを行っており、問題点を指摘された場合は、ただちに解決策を講じるのは言うまでもない。株式公開も事業計画に入れているが、最優先するのは千葉県内での事業展開。店舗の増設に取り組み、県内全域をカバーする体制を確立する方針だ。
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